飯島企画業務日誌

図書倶楽部『サキの忘れ物』津村紀久子

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おはようございます😉
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図書倶楽部『サキの忘れ物』津村紀久子
表題作を含む9話の短編集。読み終えたあとに濃度の濃さを慮らさせる独特の世界観。
日常生活の延長線上のちょとした非日常。そんな1つのきっかけをつかんでそれぞれの未来を掴んでいく。
■表題の一編
一冊の本を最後まで読んだことのないカフェ店員の女の子(千春)。千春には夢中になれる物がない、人生の目標も無かった。そんな時に店に定期的に訪れ一時間ばかり本を読んでいくおばあさんを見て、夢中になれる物があって羨ましいと思っていた。
ある日そのおばあさんが本を忘れていった。読む気は無いが、このくらいの薄い本なら自分にも読めるかな、と思いながらペラペラとページをめくる、その本には昔から千春が思い描いていた言葉が目に止まった。この何気ないきっかけから本を読む喜びに目覚め、そして未来も夢見るようになり、後のシンクロニティとなる。

■純粋だからこその感覚と自身の中の世界観と不思議な体現感情。

言葉を交わした事の無い人に、初めて声をかける瞬間の勇気、そして受け止めてもらえたと感じた時の安堵、調子に乗りすぎたな、と身の置き所に恥ずかしくなる程の自責の念。

客寄せパンダにつられパブロフの犬になる人々の中の欲望と感動の深さの違い。

すれ違う、隣り合う、すべての他人がそれぞれの人生を生きている。当たり前なのにすぐ見失うこの事実。

”運命の出会い”がなくたって”選ばれた存在”でなくたっていい―自分が選ぶように、小さな一歩を踏み出せば良い。

交わった人と人が、どんな線を描くかは時が過ぎないと分からない。上手くいく時もそうでない時もあると解っていても。だから人は一生懸命に生きて美しい線を描こうとするのだろうか。人と人との出会いってそういうものなのかもしれない。
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